不動産投資家の自分流投資戦略(シリーズ第4回)・・・江戸川 京介

「住宅取得の必要性について(実際の失敗事例をもとに)」


1 はじめに

 最近行われた住まいに対する意識調査では、持ち家志向が低下し、賃貸派が増えたことが話題になりました。
これは、長引く不況による雇用情勢と賃金の不確実性に伴い、それに対応すべくリスクヘッジしたものと考えることができ、 住まいそのものもコンパクト化したものと考えられます。
転勤や転職が多い場合、 生活の変化に柔軟に対応できるという点で賃貸住宅に住むメリットがあると考えられます。 また賃貸物件が大量に供給されていることから物件間の競争も激しく、賃貸物件の質も向上しつつあります。 それに加えて、住宅手当がある会社の場合、持家には支給されないケースも存在することから、賃貸住宅の一定規模の需要は存在するものと考えられます。 また、賃金の抑制や非正規雇用者の増加により、長期住宅ローンのリスクを負うことが難しいのも現実だと思います。
このような背景からも手軽でかつ柔軟性の高い賃貸住宅を選択しているものと考えられます。 また、所得がある現役世代においては、希望する住環境を自由に手に入れることが出来るため、住宅取得の必要性について実感が沸かないと思います。
しかし、将来の人生を考えた場合、自分がどのような老後を送りたいのかといった、希望のライフプランを実現させるためには、 生活の大部分を占める住宅についても、早い段階から様々な角度から真剣に考える必要があります。なぜなら、年齢が高くなるほど、 理想の住環境を手に入れるには多くの制約が存在するからです。
そこで、今回は理想の住環境について検討が遅れた結果生じた失敗例について実例を交えて紹介したいと思います。



2 住まい確保の失敗例

(1)賃貸を選択した人の失敗例

 私が都内に区分所有するマンションに住み込みで管理人をしていた鈴木さん(仮名・75歳)について紹介します。
鈴木さんは長年にわたり、夫婦でマンションの住み込み管理人をしておりましたが、旦那さんが亡くなってからは引退を考えるようになりました。
地方に住む親戚からは、田舎に戻って余生を送るよう勧められましたが、友達も多く、長年かかりつけの医師も近所にいることから、 東京都心での生活を希望しておりました。
しかし、子供のいない鈴木さんには連帯保証人となりうる人がおらず、住宅選びは難航しました。 また引退後の収入源は年金に限られているため、高い賃料を支払うことに不安を感じていたとともに、 孤独死の恐れがあるとして、賃貸契約を拒否されたこともありました。
 最終的には、知人が経営するワンルームのアパートが偶然空いたために入居が決まりましたが、 20平米にも満たない広さであるため、多くの思い出の品を手放すこととなってしまいました。引越の後に鈴木さんにお会いした時、 「子供がいないから若い頃は二人の生活を楽しんだけど、今思えば、若いからこそ、小さくてもいいから自分の家を買うべきだった」と後悔していました。

(2)住宅取得の選択が遅れた人の失敗例

 次は私の友人の佐藤さん(仮名・55歳)について紹介します。佐藤さんは、大手アパレルメーカーに勤務するOLです。
佐藤さんは、若い頃から多くの趣味を持ち、友達にも恵まれ、趣味に囲まれた独身貴族を謳歌していましたが、定年まで10年をきった頃、 終の棲家として住宅購入を考えるようになりました。佐藤さんの年収は大手企業とあって、平均的なOLさんよりも高い給料を得ている点で、 恵まれているといえました。住宅探しをしている中、いくつか気に入った物件がありました。価格は佐藤さんよりも年収が低い若いサラリーマンでも購入できる金額でした。 しかし、佐藤さんが購入を申し込む際、気がつかない問題があったのです。
それは、年齢の壁でした。定年までの期間が短かったことから、平均的なサラリーマンが借り入れできる金額(2,000~3,000万円)の融資が下りなかったのです。 また、融資が下りたとしても、金利が高かったり、または高い金利のローンと組み合わせたりいった形での融資しか受けられませんでした。このような場合、 高い金利に加えて、手数料を二重に支払わなくてはならないといった不利な条件しか提示されませんでした。
 結局、佐藤さんは希望の物件を諦めざるを得ず、金額面でも当初の半分の予算で物件を探さざるを得ませんでした。これまで賃貸で借りていた高級物件を退去し、 条件面で折り合う物件を見つけて入居しましたが、築年数や立地、広さの面において、全て妥協せざるを得ませんでした。
佐藤さんも、鈴木さんと同様、「若いうちに資産形成も兼ねて住宅を購入しておくべきだった。」と後悔していました。


3 早期に住宅購入する必要性

 これまで、ふたつの事例を紹介しましたが、共通して言えるのは、年齢を重ねるごとに住宅の選択という点で制約が増えていくということです。
現役時代のように、金銭的な安定があるうちは、賃貸・購入いずれの選択肢を選ぶことが可能です。しかし、佐藤さんの例でも紹介したように、 退職後は収入が大きく減少するため、購入時の融資条件に大きな制約を受ける(融資額、返済期間)という見えないリスクがあります。また、 一生賃貸を選択する場合でも、核家族化や晩婚化といわれるなか、後継者がいない高齢者世帯の場合、 賃貸時の保証人の問題が発生する(保証会社を使った場合には保証料が必要になる等、不利なことが多い)ということが生起します。 また、年金の不確実性及び医療や介護の負担が高まる中において、賃料を支払い続けることは大きな負担であり、老後の不安要素のひとつとなりうると考えます。
 今は歴史的な超低金利政策が継いていますが、今の日本の経済状況から、中長期的には金利上昇余地が高いと考えられています。 そのため、金利が低いうちに住宅取得するメリットは大きいと思いますし、努めて早期に住宅を取得することで、 早くローンを終わらせて老後に備えることが最良の方法だと思います。


まとめ


 経済的余裕がある若いうちは、身軽な生活による便益を享受していた人でも、 住宅という生活基盤を持たないことによって、高齢化したときに選択肢が限られてしまうということが共通した問題点であったことが分かります。
現役時代に賃貸を選択したとしても、一生継続するには、必要以上の経済力が必要となるため、 いずれは住宅を購入する必要があると考えます。そういう意味で、住宅購入は将来への備えとして避けては通ることができないイベントであると思います。



  江戸川 京介



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