相続税-小規模宅地の特例

 こんにちは、税理士の在間です。
今回は相続税関連の第二弾として小規模宅地等の特例について、税制改正の内容をからめてお伝えします。

Ⅰ 小規模宅地等の特例の内容


 小規模宅地等の特例とは、相続財産である宅地等(土地または借地権等で一定の建物または構築物等の敷地となっているもので棚卸資産等に該当しないもの)のうち、 相続開始直前において被相続人等(被相続人または被相続人と生計同一の親族)の事業の用または居住の用に供されていたものについて一定の選択をした場合、 一定の割合を減額するというものです。

たとえば、下記(1)の特定居住用宅地等にあたる土地(300㎡ 1㎡あたりの路線価 30万円)を配偶者が単独で相続した場合、以下の金額が課税価格に算入されます。

   30万円 × 300㎡ = 9,000万円
9,000万円 × 240㎡ ÷ 300㎡ = 7,200万円
7,200万円 × 80% = 5,760万円
9,000万円 - 5,760万円 = 3,240万円

上記の例では、特例の適用の有無で5,760万円の課税価格の差異があるということになります。

小規模宅地等の特例にはいくつかの類型があります。
・特定居住用宅地等    ・特定事業用宅地等    ・特定同族会社事業用宅地等
・貸付事業用宅地等    ・郵便局舎敷地用宅地等

では、小規模宅地等の特例の類型を見ていきたいと思います。

(1)特定居住用宅地等・・・限度面積 240㎡ 減額割合 80%

相続開始直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、次の区分に応じ、それぞれの要件に該当する被相続人の親族が取得したものをいいます。 なお、居住用宅地等が2以上ある場合は、主として居住用とされていた1つの宅地等に限られます。
一般的にはマイホームを相続する場合等に、この特例が適用できるかと思います。

要件1

(2)特定事業用宅地等・・・限度面積 400㎡ 減額割合 80%

相続開始直前において被相続人の事業(貸付事業を除く。以下同じ。)の用に供されていた宅地等で、 次の区分に応じ、それぞれに掲げる要件のすべてに該当する被相続人の親族が取得したものをいいます。
一般的には、亡くなった方が個人事業を営んでいて、相続人がその事業を引き継ぐような場合、 又は個人事業を相続人に引き継いだ後に相続が発生した場合等に、この特例が適用できるかと思います。

税率


(3)特定同族会社事業用宅地等・・・限度面積 400㎡ 減額割合 80%

相続開始の直前から相続税申告期限まで特定同族会社(相続開始の直前において被相続人及びその親族が法人の 発行済株式数又は出資総額の50%超を有している場合のその法人)の事業(貸付事業を除く。以下同じ。)の用に 供されていた宅地等で次の要件すべてに該当する親族が取得したものをいいます。
一般的には、亡くなった方が経営していた会社の社屋等の敷地を亡くなった方が所有していた場合が該当するかと思います。

要件3


(4)貸付事業用宅地等・・・限度面積 200㎡ 減額割合 50%

相続開始の直前において被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等で、次の区分に応じ、 それぞれに掲げる要件のすべてに該当する被相続人の親族が取得したものをいいます。
一般的には、亡くなった方又はその生計同一親族がアパート経営等を行っていた場合が該当するかと思います。

要件3

(5)日本郵便株式会社に貸し付けられている一定の郵便局舎の敷地の用に供されている宅地等
   ・・・限度面積400㎡  減額割合 80%


  ※特殊事案のため説明は省略します。

上記(1)~(5)に共通した注意点として、

①この特例は相続開始前3年内に贈与により取得した宅地等や相続時精算課税に係る贈与により取得した宅地等については適用がありません。

②この特例の限度面積は、上記類型の複数のものについて適用を受ける場合、以下の算式で計算される面積となります。

A + (B×5÷3) + (C×2) ≦ 400㎡
A=特定事業用宅地等と特定同族会社事業用宅地等、郵便局舎敷地宅地等の面積合計
B=特定居住用宅地等の面積合計
C=貸付事業用宅地等の面積合計

③この特例は適用要件を満たす親族が相続した持分の割合のみについて適用されます。
たとえば、特定居住用宅地等にあたる土地(300㎡ 1㎡あたりの路線価 30万円)を配偶者が2 分の1、適用要件を満たさない親族が2分の1の割合で相続した場合、以下の金額が課税価格に算入されます。

   30万円×300㎡=9,000万円
9,000万円÷2=4,500万円
4,500万円×80%=3,600万円
9,000万円-3,600万円=5,400万円

※配偶者の持ち分1/2に対応する部分(150㎡相当)について80%減額を適用

Ⅱ 税制改正の影響

平成25年度税制改正において、小規模宅地等の特例について以下のような改正が行われています。適用開始時期がまちまちなのでご注意ください。

(1)特定居住用宅地等の面積が拡大(平成27年1月1日以降の相続から適用)

改正前 限度面積 240㎡ →  改正後 限度面積 330㎡

(2)居住用と事業用の宅地等を選択する場合の適用面積が拡大(平成27年1月1日以降の相続から適用)

改正前 前述のとおり、以下の限度計算が必要となる。
A + (B×5÷3) + (C×2) ≦ 400㎡
A=特定事業用宅地等と特定同族会社事業用宅地等、郵便局舎敷地宅地等の面積合計
B=特定居住用宅地等の面積合計
C=貸付事業用宅地等の面積合計

改正後 選択する特例対象宅地等がAとBのみでCがない場合またはCがあっても選択しない場合は、AとBの併用が可能(A 400㎡+B 330㎡=730㎡が最高限度)となる。

(3)二世帯住宅に対する適用要件の緩和(平成26年1月1日以降の相続から適用)

改正前 二世帯住宅のうち、建物内部で行き来ができる構造(内階段がある等)のものでないと「同居している」とみなされず、 二世帯住宅の一部しか特定居住用宅地等とならなかった。(親世帯の家屋に対応する部分のみが特定居住用宅地等)
改正後 二世帯住宅のうち建物内部で行き来ができない構造のもの(外階段しかない等)の敷地も、特定居住用宅地等となる。ただし、親世帯家屋と子世帯家屋とが区分登記されている場合は、改正前と同様に親世帯家屋に対応する部分のみが特定居住用宅地等となる。 ※前出の「特定居住用宅地等の特例の適用要件」は満たす必要があります。(以下(4)において同じ)

(4)老人ホーム入居の場合の適用要件の緩和(平成26年1月1日以降の相続から適用)

被相続人が亡くなる前に老人ホームに入居し、老人ホームで亡くなった場合、被相続人がもともと住んでいた自宅敷地が特定居住用宅地等となるかという問題です。

改正前 以下の要件を満たす場合はもともとの自宅敷地を特定居住用宅地等として扱う。

①被相続人の身体又は精神上の理由により介護を受ける必要があり、老人ホームへ入所することとなったこと。
②被相続人がいつでも生活できるように自宅建物の維持管理が行われていたこと。
③入所後その建物を他の者の居住の用その他の用に供していないこと。
④その老人ホームは被相続人が入所するために被相続人又はその親族によって所有権が取得され、あるいは終身利用権が取得されたものでないこと。

改正後 以下の要件を満たす場合はもともとの自宅敷地を特定居住用宅地等として扱う。

①被相続人が相続開始直前において介護保険法等に規定する要介護認定等を受けていたこと
②被相続人が老人福祉法等に規定する養護老人ホーム、有料老人ホーム等に入居または入所していたこと
③入所後その建物を以下の用途に供していないこと
事業(貸付を含む)の用
被相続人又は生計同一親族以外の者の居住の用

※改正前は有料老人ホームに入所している場合、特定居住用宅地等の特例ができなかったのですが、その点が改正されたことはインパクトがあると思います。


いかがでしたでしょうか。

小規模宅地等の特例は相続税申告の実務では必ずといっていいほど、発生する事案です。
平成27年からの基礎控除の引き下げとともに、多くの方がまじめに検討しなければならない事態となっているかもしれません。
個人的な意見としては、特定居住用宅地等の特例における二世帯住宅等で区分登記されている場合についての扱いは、要注意と思います。

次回以降も相続税に関するテーマを検討しようかと思っています。


<参考資料等>
・高橋安志著「小規模宅地特例の活用」(ぎょうぜい)
・国税庁ホームページ「タックスアンサー」



  執筆者
  在間 真太郎(ざいま しんたろう)
  1963年生 50歳
  1986年中央大学商学部卒業後、小沢公認会計士事務所入所。
  1989年税理士試験合格、現在に至る。
  資産税案件、相続税案件を多数手掛ける。


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